紙とペン、広いテーブルに長椅子

パートナーの一言に刺激されたのか、自分が好きだったものを少しずつ思い出してきた。

――そうだ、わたしは紙とペンが好きだった。

便利だからスマホやパソコンばかり使っていたけど、紙の手ざわりとペンの書き心地はサイコーだ。

ペンを握ってノートに文字を書き殴っていると、また一つ思い出した。

――そうだ、広いテーブルと長椅子にずっと憧れていたんだ。広いスペースでのびのびと作業するのが好きだった(ちゃんと覚えていたら、重たいソファを買って失敗することもなかっただろうに)

不思議なことに、

ずっと思い出したくても思い出せなかったことが、芋づる式に出てくるようになった。

――あぁ、カメラ撮るのも好きだったな。ミラーレスしか持ってないから、一眼レフ欲しかったんだよな。

――動画編集けっこう楽しいんだよね。途中まで作りかけの作品があったっけ……。

さとのかは物心ついた頃から、多様な趣味に一人で没頭していた。

たくさんあったハズなのに、気づいたら好きなものが思い出せなくなっていた。

時間に追われ、お金に追われ、心に余裕がない毎日を過ごすうちに、好きなものから少しずつ離れていった。やがて、

「わたし何のために生きてるんだろう」

無気力になった。

いま思えば、身の回りに“好き”が一つもない状態では、生きる意味が見いだせないのも当然だ。

生きるためにやりたくもない仕事をして、食べて寝るだけの人生。絶望しかない。

好きなものに囲まれて暮らすことって、生きる上で大事なんだな。

ふと見渡すと、モノが散乱した部屋が目に入った。心がときめくようなものは一つも見当たらない。これはよろしくない。

部屋を一掃して、わたしの心がときめくものを飾ろう! と決意した。